お侍様 小劇場 extra

    “笹の葉 さらさら♪” 〜寵猫抄より
 


  ―― さて、同じ花屋を覗いてった、もう片やのお宅はといえば。


 「にゃあ?」

お買い物から戻った七郎次が、
お留守番していた勘兵衛と久蔵へ、
どちらもいい匂いの立つお茶とミルクを出してのそれから。
自分はちっとも休まぬそのまま、
お庭用のエプロンをかけつつお外へ再び出てってしまい。
大好きな勘兵衛と遊んでいたのに、
不思議なもので、
七郎次がいないのもまた微妙に寂しかった小さな仔猫。
ミルクは2、3口だけ舐めただけ。
それよりも気になる七郎次を後追いし、
リビングの端っこ、開け放たれた掃き出し窓のぎりぎり縁に立つと、
そっちへ出てった七郎次へ届けとばかり、
にぁあう・みゃおうと盛んに鳴き立てれば、

 「どしたね、久蔵。」

慌てて駆け戻って来たところが、さすがというか何と言おうか。
どこか逼迫した鳴き方だったが如何しましたかと、
仔猫の後ろに立っていた勘兵衛へ、
真顔で言う彼が小脇に抱えていたのが、

 「笹? ……あ、そうか。七夕か。」
 「ええ。」

途端にどこか無邪気な微笑いようをした敏腕秘書殿。
結構奥行きの深い庭の一角に、
小さな笹の茂みがあったところから切り出して来たらしく。
これだけは外せない風物詩だと言わんばかりの微笑いようだったが、

 “幻想作家による七夕セッションとやらいう対談を、
  今時そんなタイトルじゃあ流行りませんと断ったのは、
  何処のどどいつだったやら。”

いや、あれは。
テレビ番組への出演依頼だったからでと、
きっとしどもど言い訳するだろと、
判っているから此処で言いまではしなかったものの。

 「さぁて、
  折り紙やら飾り物やら、どこまで覚えているやらですが、
  にぎやかに飾りますか。」

きれいな目元をたわませて、
にっこり微笑った連れ合い殿には、どうで逆らえるはずもなく。
こちらもお付き合いする気は満々だった島田先生。
ただ、

 「だが、笹の葉にいろいろ下げるとなると、
  久蔵がじゃれついてちぎってしまわぬかな。」
 「あ。」

似たようなお飾りといえばの、
クリスマスのツリーがでんと飾ってあった折は、
とんだアクシデントが怪我の功名という格好になって、
あまり近寄らぬまま大人しく眺めて済ませられた仔猫様だが。
本来の性分から言えば、
光り物やら揺れるものやらには本能が黙っちゃいないだろう。

 「ありゃりゃあ…。」

きっと、そのお猫様を喜ばせたくての、
庭の奥から一枝刈り取って来た彼だったのだろに。
その仔猫が悪戯をして台なしにするかもしれないとまでの予測は、
さすがに立てられはしなかったらしくって。

 「…どうしましょうか。」

既に、鼻の先でさわさわと遊ぶ笹の葉へ、
小さな手を伸ばしては興味津々でいる久蔵なのを。
意気揚々だったものが一転、
困ったなぁと見下ろすばかりになっている白いお顔へ、
なんて愛しい子だろうかねぇと、
こちらはこちらで深く感じたらしい勘兵衛様。

 「……まあいい。」
 「はい?」

何をどう、まあいいと思った彼なのか。
こちらを向いた若々しいお顔へと、
男臭くも精悍なお顔に、案ずるなという笑みをだけ滲ませて。
笹の葉にちょっかいを出してた小さな仔猫さんを抱え上げ、
先にすたすたリビングの奥向きへ戻ってしまったのであった。



       ◇◇◇


 よしか、久蔵。
 七夕にはああやって
 笹に願い事を書いた短冊を吊るしておくのだが、
 軒端へ立ててからは悪戯をしてはならぬし、
 決して夜中に見てもならぬ。
 短冊を読みに来た天帝の姿を見てしまうと、
 残念、その年は願い事を聞いてはもらえなくなるのだ。
 だが、いい子で朝まで眠っておるなら、
 天帝もゆっくりと読むことが出来るから、
 よしよし、この子の願いは叶えてやろうぞと、
 聞いてもらえるやも知れぬ。

 にゃああ♪


深色の蓬髪を背へと流した姿は、
ともすれば仙人か賢者のようであり。
おごそかな顔つきをした、そんな勘兵衛と向かい合う格好で、
小さな仔猫もきちんとお座りしているところは、
いかにもなお説教の図のようでもあって。
いやまあ、内容を聞く分には、
叱られている訳じゃあないと判るのだが。

「あれってちゃんと通じてるんでしょうか?」
「さあ。」

家人以外の目からは、
ちんまり小さな仔猫にしか見えぬ久蔵で。
猫の声でしか鳴かぬので、
家人へも実のところ、その部分は不明なのではあるが、
あれで結構、人の言うことが通じているらしく。
ただまあ、それをどう説明すればいいやら判らないため、
笹への飾りつけを進めつつ、
眉を下げて苦笑った七郎次だったりするのだが、

「それより…作家っていうのは、
 一年中“エイプリルフール”モードじゃなきゃあ、
 いけない職業なんでしょうかねぇ。」
「さぁて。」

今度は平八が肩をすくめて見せる番。
まま、いかにもな行事催しなんぞを もじって言い換えるのは、
昔っからよくある言葉遊びだし。
幼い存在が相手だからか、
言葉をよく知る勘兵衛にしては、
あれでも穏当な方だと思う平八だったらしく。

「それじゃあ確かに頂いてまいります。」

大事な原稿を頑丈そうなブリーフケースへ納めると、
仔猫と語らう先生様へもぺこりと頭を下げてから、
そそくさ立ち去った編集のお兄さんであり。
彼にしてみりゃ、
いつものお遊びの一環に過ぎない情景だったのかもしれないが、

 “……う〜ん。”

こなた様にしてみれば、それで済まないのはやはり、
保護者の片割れなのだという、
無自覚のうちの自覚が 強いからこそだったのだろうと思われて。

 勘兵衛様、
 あのようなデタラメを言って、
 久蔵が本気にしたらどうします。

 毎日ああまでお元気に遊んでおるのだ。
 くたくたになって寝てしまえば覚えておるまい。

 「甘いですね。」
 「お?」

いつぞや、テレビで美味しそうなシラスの特集を見たおりに、
じゃあ買って来ましょうねと言っといて、
ついうっかりと忘れたことがあったのですが。
ぷいと拗ねてしまって、
次の日のお昼に出すまで、ずっと口元尖らせておりましたもの、と。
実際例を挙げた七郎次だったものの、

「…それは一体いつの日の話だ?」

儂だけが丸1日外食して過ごしたような日というのは、
このところなかったと思うのだが、
そんな拗ねようをしていたところなぞ、見た覚えが…と。
勘兵衛の側にしてみれば、
そんな経緯への覚えがない方が気になったらしくって。
だがだが、

「勘兵衛様こそ、気がつかなんだのですか?」

むむうと口元尖らせて拗ねてしまうとね、
怒っているにも関わらず、
あの細っこい肩がちょっぴり落ちて、
そりゃあそりゃあ寂しげな風情になってしまうのに。

「…判った判った。」

説明しているご当人もまた、
例えているつもりか、
そのようなお顔と悄然とさせた肩になっていては世話はない。
しかもしかも、
選りにも選ってその小さな仔猫様本人が、
“どうしたの?”と言わんばかり、
座っていたお兄さんのお膝へお手々を乗っけ、
覗き込むように伺ってくださるという、
何だかややこしい図になってもいるものだから。
久蔵を残念がらせるのとそれから、
七郎次を悲しませることに通じるデタラメは、
やっぱりよろしくないと痛切に感じたらしい島田せんせい。
やはりいかにも鹿爪らしいお顔をし、
顎のお髭を撫でながら言い立てたのが、

 「久蔵。」
 「みゃあ。」
 「さっき話した天帝はな、
  中国の神様だから中国語で書いた短冊しか読めぬのだ。」
 「みゃ?」
 「…なんですか、そりゃ。」

  ……いつまでも やってなさい。
(苦笑)



  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.07.01.


  *小さな仔猫さんが、
   その日のことはその晩には忘れると思ってた勘兵衛様。
   七夕まで毎日、
   作り話をする気満々だったらしいです。
   …それはそれで聞いてみたかったかもですね。
(おいおい)
   ちなみに、サンタクロースは
   どこの国の言葉でも使えるし読めるんじゃなかったか。
   それに比べると……守備範囲狭いぞ、天帝様。
(こらこら)

   冗談はともかく。
   久蔵さんも短冊相手の格闘を
   一応はやってみてくれたらいいと思います。
   小さな手へ赤ちゃん握りしたクレヨンが何とも可愛くて、
   無心にグリグリと何やら書きなぐってるさまへ、
   シチさん、相変わらずの惚れてまうやろが出て、
   声もなく頬を染め、思う存分見惚れればいいです。
(笑)
   そうして書きあがったものは、黒と茶色と黄色の毛玉。
   「???」
   小首を傾げる勘兵衛様をよそに、
   「凄いね、久蔵vv
    これが勘兵衛様でこれが久蔵だね。これは私かな?」
   「みゃあvv (えっへん)」
   「……確かに凄いな。」

   おあとがよろしいようで。
(笑)

 *重大な P.S.
  露原藍羽様のところで、
  うちんとこの仔猫のお友達の、
  お兄さん猫キュウさんの七夕のお話がUPされておりますvv
  なんとウチのおチビがまたまた構って頂いておりますvv
  ありがとうございます〜〜〜
  ウチのキュウが
  さりげなくアジサイを避けたところで大ウケです。
(笑)
  可愛いお兄さん猫のお宅はこちらですvv →

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